MTCでは、高いレベルの『翻訳の質』を品質管理における最重要ポイントだと、捉えています。
翻訳後のページ編集(DTP)・印刷、用語管理、お客様のご要望に答える納品・データ編集等、他にも品質と呼べる要素が翻訳案件にはありますが、やはり『翻訳の質』が品質管理の中心に据えられるべきであり、それを実現する体制作りが大切だと考えます。
『翻訳の質』を高いレベルで維持するために、MTCが最も力を入れていることは、熟練した翻訳家に、翻訳作業に集中できる環境を作り出すことです。翻訳家には翻訳作業のみに集中し、とことんこだわった訳文の作成を求めています。
一方で、チェッカー並びに編集者には、チェック項目、編集作業内容をコアの作業としながらも、訳文にも注意を払うよう、幅広い作業を要求しています。
では、『翻訳の質』と何か?
実は、『翻訳の質』は、案件の属性により、若干異なります。
以下では、具体例を通して、『翻訳の質』向上への取り組みの典型的な流れを紹介します。
品質管理の要諦は、お客様と弊社のすべての担当者(翻訳担当者、営業担当者、ネイティブチェッカー、ページ作成担当者、最終チェッカー)との間の緊密なコミュニケーションにある、と考えます。弊社では、高い品質の達成のために、どのようなコミュニケーションを実践しているかを具体的にご紹介します。
最近実際に行った、ロボットの操作・設計マニュアルを例に、翻訳作業の流れを以下に紹介します。
翻訳言語:日本語⇒英語
作業内容:Wordで作成された日本語のマニュアルを翻訳し、英語版Wordファイル作成
まずは、Wordファイルで複雑に体裁を整えられた日本語原稿から、日本語テキストのみを抽出します。
別に用意したWordファイルに、二列数百行の表を作成し、その左側に抽出した日本語テキストを並べ、それに対応する英訳文を表の右側に(翻訳担当者が)入力できるよう、右側は空欄にしておきます。ちなみに、この作業は、プロジェクトを包括的に把握することを目的に、営業担当者兼最終チェッカーが行います。
お客様支給の日本語版Wordファイルに、そのまま翻訳担当者が英訳文を入力する方が、一見効率が高そうに思われますが、この原稿作成作業には、効率性の追求よりも重要な利点が多数あります。そして、それらは、いかなる効率性にも代え難い利点となります。実は、プロジェクト全体を考えると、これに勝る効率的原稿がないことも事実です。
ここで、効率性追求に勝る重要な利点、その作業内容を時系列で紹介します。
1. 翻訳担当者には、翻訳のみに集中してもらう
ページの作られ方、表の組まれ方、日本語の文章と英語の文章の長さの違い等により、日本語版Wordファイルへの上書き作業を行うと、翻訳担当者は、最も大事な翻訳作業以外に気を取られてしまう可能性があります。そうした可能性を一掃するために、上記説明の日英併記のWordファイルを原稿として作成しています。
日英併記Wordファイル原稿を作成し次第、翻訳担当者に同ファイルが渡されますが、営業担当者兼最終チェッカーにより、重要なさらなる作業が行われます。
2. 営業担当者兼最終チェッカーによる、日本語原稿の読み込みおよびその他の重要作業
この時点では、日英併記Wordファイル原稿を使って、翻訳担当者は、翻訳作業を始めています。それと並行して、営業担当者兼最終チェッカーがお客様支給の日本語版Wordファイルを表組されたままの状態で読み込み、以下の作業を行います。この読み込みやその他作業は、翻訳担当者へのサポート時、ならびに最終チェック時に大きな効力を発揮します。
では、営業担当者兼最終チェッカーが行う作業を具体的に説明します。
2-1. 日本語原稿の読み込み
日本語原稿に誤字脱字、意味不明箇所が無いかを確認し、問題等がある場合は、お客様に連絡し、修正します。
もちろん、修正内容が確定し次第、その内容が翻訳担当者に連絡されます。
2-2. 用語集の作成
技術文書には、分野特有の専門用語、お客様あるいはその業界特有の用語が使用されています。
それらを営業担当者兼最終チェッカーが拾い出し、新たに日英併記用語集Wordファイルを作成し、翻訳担当者に単語レベルでの翻訳を作成させ、その内容をお客様にご確認頂きます。
この用語集は、現案件のみならず、同じお客様からの次のプロジェクト実施の際に、品質の確保、効率アップといった大きな効力を発揮します。
2-3. 固有名詞の作成
技術文書に限らず、社名、お名前、ご住所等、すべての固有名詞を営業担当者兼最終チェッカーが拾い出し、新たにを日英併記固有名詞確認Wordファイルを作成し、お客様にご確認頂きます。
翻訳作業中の翻訳担当者へのサポートも、営業担当者兼最終チェッカーの重要な仕事です。
上記の「用語集」および「固有名詞確認表」の確認段階で、営業担当者兼最終チェッカーは十分な信頼関係を築いておく必要があります。つまり、翻訳担当者から何らかの質問が届いた際には、迅速にお客様と連絡が取れる状態を確保し、スムーズにお客様からのご回答を翻訳担当者に伝えられる状態にしなければなりません。
翻訳担当者が終えた翻訳済日英併記Wordファイルは、そのままネイティブチェッカー(アメリカ人またはイギリス人の翻訳家)に転送されます。
ネイティブチェッカーは、日英併記Wordファイルに修正履歴を残した状態で、チェックおよび修正作業を進めます。
この段階でも、ネイティブチェッカーからの質問は、営業担当者兼最終チェッカーが受け、場合によってはお客様と相談しながら、チェック作業を完了させます。
翻訳担当者へ、フィードバック。
ネイティブチェック済ファイルは、ページ作成担当者に送られ、日本語版Wordファイルに英訳文が文章ごとにコピーされます。その際、日本語よりも英語の方が文章が長くなりますので、レイアウト、文字サイズ、行間等の細かな修正を行います。
もちろん、この作業も、外国語のページ編集に慣れたページ作成担当者が行いますが、翻訳者に比べれば言語能力は劣ります。となれば、ページ作成担当者が、日本語に該当する訳文を容易に特定できる環境を作ることで、本来の仕事である、ページ編集作業のみに集中できます。つまり、日英併記Wordファイルの利点はここにもあります。
ページ編集作業を終えた英語版Wordファイルを、日本語版Wordファイルに照らし合わせながら、営業担当者兼最終チェッカーが最終チェックを行います。営業担当者兼最終チェッカーは既に日本語版Wordファイルを読み込んでおりますので、この最終チェック作業は非常にスムーズに行うことができます。
最終チェック済英語版Wordファイルは、メール、宅配便等でお客様に納品されます。
お客様の内容確認が終わった頃に、営業担当者兼最終チェッカーがお客様を訪問し、細かなご要望を改めて伺い、次のプロジェクトに向けて、「用語集」の再確認を、お客様と一緒に行います。
(本案件では、実際にお客様を訪問し、今後の展望等を伺いながら、次案件の具体的な予定について話し合いましたが、遠方のお客様の場合は、電話やメールでこの作業は行われます。)